経営戦略を一変。5G活用勉強会レポート 第3回
技術革新とSDGs
編集:デジタル本部コンサルティング部 豊田康裕 / ライター:菊地原博
1.そもそもSDGsとは
SDGsとは?
「持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。」(外務省)
また特徴として下記があげられています。
- 「普遍性」 先進国を含め,全ての国が行動
- 「包摂性」 人間の安全保障の理念を反映し「誰一人取り残さない」
- 「参画型」 全てのステークホルダーが役割を
- 「統合性」 社会・経済・環境に統合的に取り組む
- 「透明性」 定期的にフォローアップ
SDGs=三方よし?
笹谷氏は、日本の「三方よし」の概念が非常に近いと言います。
世間よし、相手よし、自分よしという誰も取り残さない思想はまさにSDGs的です。
SDGsは共通言語
では、なぜわざわざSDGsに取り組まないといけないのでしょうか。
それは日本の「三方よし」とSDGsには一つ、大きな違いがあるためです。
「三方よし」は、
- 人に知られないように善行を施すこと、を美徳としている
「発信がおさえられた行動指針」
であるのに対し、
SDGsは
- 積極的に発信しあい、話し合い、
オープンイノベーションを起こしていくことを目指す
「積極的な発信の行動指針」
であるという点です。
すでに、
日本が持っている「三方よし」を発信型にアップデートする「発信型三方よし」が、
SDGsに取り組むこと、
世界で話し合いができること、
につながるのです。
17も覚えきれないので、5つにしてしまおう。
SDGsには、17の目標のもとに169のターゲットがあります。
ポイントは、それぞれが単体で存在するのではなく、つながっているということです。
笹谷氏は17の目標を次の5つのPからとらえると、SDGsがわかりやすいといいます。
-
People(人間)
「あらゆる形態の貧困と飢餓に終止符を打ち、尊厳と平等を確保する」Prosperity(豊かさ)
「自然と調和した豊かで充実した生活を確保する」Planet(地球)
「将来の世代のために地球の天然資源と気候を守る」Peace(平和)
「平和で公正、かつ包括的な社会を育てる」Partnership(パートナーシップ)
「確かなグローバルパートナーシップを通じ、アジェンダを実践する」
「持続可能性とは世のため、人のため、自分のため、そして子孫のために、これらの5つのPを実践すること」と捉え直すと、一気に取り組みやすくなります。
2.技術革新/5GがSDGsにどう影響する?
本勉強会のテーマである5Gなどの技術革新は
SDGsにどう影響するのでしょうか。
笹谷氏は、第5期科学技術基本計画の中で提唱されている“Society 5.0”がそのヒントになると言います。
“Society 5.0”とは
“Society 5.0”とはサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
(内閣府HP https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)
Society 5.0は
これまでの情報社会(Society 4.0)における、
- 「知識・情報の共有、連携が不十分」
「地域の課題や高齢者のニーズなどに十分対応できない」
「必要な情報の探索・分析が負担、リテラシー(活用能力)が必要」
「年齢や障害などによる、労働や行動範囲の成約」
といった課題をIoT、AI、ロボティクスなどのテクノロジーが解決する社会です。
少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差、情報格差などをテクノロジーで解決するという考え方はSDGsの
- 包摂性 : 人間の安全保障の理念を反映し「誰一人取り残さない」
- 参画型 : 全てのステークホルダーが役割を
- 統合性 : 社会・経済・環境に統合的に取り組む
といった考え方に合致しており、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指すという点においてもSociety 5.0の実現はSDGsに直結します。
5GはSociety 5.0で提唱されている「サイバー空間、フィジカル空間の高度な融合」を加速することが予想されます。
「多数同時接続」により、あらゆるものがIoT化、センサー化し、フィジカル空間の情報をより高次元でサイバー空間に入力することが可能になります。
「超低遅延」により、端末が処理機能を持たずとも、リアルタイムに遠隔でデータ連携・処理を行った上での、高度なサービスを幅広い地域に行き渡らせることができるようになります。
また「超高速大容量」によって、XR、触覚伝達などを通して、場所や行動範囲の制約を克服したリアルなコミュニケーションが実現します。
また経団連は、Society 5.0をSDGsに紐づけ整理しており、幅広い分野でリンクしていることがわかります。
このように、Society 5.0の概念を通して見ることで、5Gをはじめとしたテクノロジーの進歩がSDGsの推進に直結していることがわかりました。
3.どうすればいい?
では、企業がSDGsに取り組むにはどうすればよいのでしょうか。そのポイントは事業とSDGsをつなぐことだと笹谷氏は言います。先進事例とともに説明いただきました。
笹谷氏 「SDGsに取り組む時に重要なのは、17の目標を横に並べるのではなく、中心にSDGs9『産業と技術革新の基盤をつくろう』を据えることです。そして、それぞれがどの分野が得意かはっきりさせて、17目標の中からヒントを得て、取り組むテーマを見つけていくことです」
バリューチェーン全体にSDGsをマッピング : 伊藤園
笹谷氏 「伊藤園ではバリューチェーン全体を通じて、SDGsに及ぼす可能性のある影響を把握しています。そして、『茶畑から茶殻まで』の一貫生産・販売体制について、すべてSDGs目標と関連付け、マッピングしています。例えば茶産地育成事業は2と8、茶殻リサイクルは12、『お~いお茶俳句大賞』は4という具合です」
また、茶産地育成事業はSDGs8と9の経済価値とSDGs2と15の社会的価値の同時実現で、共有価値の創造を実現しています。
そうした取り組みが評価されて、伊藤園は米フォーチュン誌 2016年9月号「世界を変える企業50選」の18位に選ばれています。
事業活動軸での、SDGs領域の整理 : クボタ
SDGsの一番分かりやすいキャンペーンを行っているのが、17目標すべてとリンケージして事業を展開しているクボタです。クボタはSDGsが目指す方向性は、「For Earth, For Life」を標榜し、食料・水・環境分野において世界への貢献を果たすという、クボタグループが目指す方向性と同じであると認識、事業活動を通じて、SDGsの達成にチャレンジするとしています。
事業領域とそれ以外でのSDGs整理:KDDI
また、KDDIは事業活動にかかわる様々な課題の中から、ステークホルダーの評価や意思決定への影響と自社が社会・環境・経済に与えるインパクトの2つの視点のもと、取り組みの検証を行い、6つのマテリアリティ(サスティナビリティ重要課題)を定めています。
笹谷氏 「マーケティングから仕入れ、物流、販売・建設、使用・運用・保守、リサイクルのバリューチェーンに沿って、事業を支えるサステナビリティ活動と事業を通じたサステナビリティ活動の2つに分けて、それぞれSDGsの目標を割り当てています」
テクノロジー・製品をSDGsに直結 : エプソン
テクノロジー面で見ると、新開発した技術「ドライファイバーテクノロジー」による繊維化、結合、成形の3つで、使用済みの紙から新たな紙を生み出すエプソンの乾式製紙機「PaperLab A-8000」がSDGsにシンクロしたモノ作りを実現しています。SDGs8、9、12の経済的価値と、SDGs6、13、15の環境領域に加えて、16「平和と公正」も併せた社会的価値を実現しており、金融機関や自治体などでの導入が進んでいます。
このように自社の得意領域、事業を直結させることで、自然にSDGsを推進することが可能です。テクノロジーの活用も自社の事業に落としてはじめて、見えてきます。
まとめ
5G to 5Pをオープンイノベーションで
笹谷氏 「5Gは協創・異業種連携が当たり前の世界を作る試みです。2019年、20年の実用化段階では5Gの活用は特定分野先行で進みますが、普及率が80%程度になる25年の大阪・関西万博開催時には用途が一般化します。その後、課題は多様化しますが、最終的には用途創出領域は5つのPに集約されます。その中で、5Gで解決することが可能な用途は多数存在します」
その取り組みを進めるためには連携・協働で新たな価値を生み出す協創力がポイントになります。まず協働のプラットフォームを作り、近江商人の「三方よし」の考え方に立った上で、積極的に情報を発信・情報を開示します。
そのことで仲間が増え、オープンイノベーションで課題が解決に向かい、企業価値も向上するという好循環が生まれます。
笹谷氏 「SDGsは気がついた人が気づいたところから始めることが重要です。SDGsでアクションを起こし、5Gと関連付けて、課題解決に取り組んでいきましょう」
マーケティング本部コンサルティング部
豊田康裕(とよだ・やすひろ)
コンビニエンスストア大手オペレーション部門を経て現職。
飲料/食品メーカー、機器メーカー、インフラ、大学などのビジネス支援を行う。
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